No.254
過労という状態を理解する(1)
今月は、海外赴任者の過労について考えてみましょう。
ご自分のことだけでなく、部下、同僚のことも想定してお読みください。
海外の業務が原因となって心身の疾病に罹患し、死亡や自殺に至るという過労死・過労自殺の問題が労務管理上の大きなテーマとなって久しいといえます。
その間、労働安全衛生法等のなかで、企業に求められる安全配慮義務の比重は大きくなってきました。
海外現地法人もしかりです。
しかしながら、「過労」という状態については明確な定義が存在するわけではありませんし、
過労状態が死亡や自殺という悲惨な結果に結び付く構造も個別ケースによって異なり、一概には説明できません。
そのため、特に海外事業所の現場ではさまざまな試行錯誤が積み重ねられているという状況だと思います。
「過労」と似た用語として「疲労」というものがあります。
疲労が蓄積された状態が過労だということになりますが、両者の区分は明確ではありません。
また、疲労や過労は、就労を続ける過程では避けることができません。
そのなかで、海外における過労死・過労自殺という最悪の結果を防止するためにも、
本コラムでは海外赴任者の「過労」という状態について、整理してみたいと思います。
1.疲労と過労
(1) 疲労の種類
疲労には、以下のとおり、「身体疲労」「精神疲労」「神経疲労」の3種類があります。
- ●身体疲労:運動によって身体が疲れる
- ●精神疲労:悩みによって心が疲れる
- ●神経疲労:集中することで頭が疲れる
「ストレス」という用語は非常に曖昧な使われ方をされていますが、それぞれの疲労を生じさせる要因となるものがストレッサー(ストレス要因)ということになります。
疲労が蓄積した状態が過労ということになりますが、疲労と過労の境界線に明確な基準線があるわけではありません。また、それぞれに厳密な定義が存在するわけでもありません。そして後述するとおり、疲労は自覚できますから対応が可能ですが、過労は必ずしも自覚できないという特性があるため、対応が難しくなります。
3種類のうち、どの疲労が蓄積するかは、ストレス要因の種類と個人差の組み合せによって千差万別だといえます。また、それぞれの疲労は独立したものではなく、複数が対になって生じることが一般的であるため、蓄積を防ぐためには、いずれかだけに目を向けることなく、総体的に疲労の程度をみていく必要があります。
(2)疲労と過労の相違点
前述したとおり、疲労から過労に至る明確な線引きはできず、それぞれの厳密な定義も存在しないわけですが、疲労と過労の相違点を整理すると、以下のようになります。従業員の状態を確認する際のチェックポイントとしてご活用ください。
①疲労
□疲れたと感じることができる(自覚できる)
□休息を取ろうとする意志が生じる
□休息によって軽減されたことが自覚できる(身体疲労)
□休息後、疲労が軽減すると退屈を感じる
□休息後は思考や情緒の混乱を生じない(精神疲労)
□ぼんやりしても休息によって集中力が回復する(神経疲労)
□身体症状が生じても休息によって消失する
□現在志向の考え方である
□一時的、軽度の状態である(一時的とは4~8週間)
どうですか?
②過労
□疲れたと感じないことがある。休息によって軽減されない
□疲労が自覚できない
□休息を取りたいと思わない
□休息後にも疲労が軽減したように感じない
□休息後、退屈を感じない
□休息後も思考が混乱し、過去の嫌な出来事が、次々と思い出される(妄追想)
□休息後も情緒的に混乱し、怒りっぽくなったり、悲しくなったりする
□休息後もぼんやりが取れない。集中力が回復しない
□身体症状が慢性持続的となる(うつ病に至った場合は、半数が頭痛や腰痛等の「痛み」を感じています)
□感染症に罹りやすくなる
□過去を顧みることが多い
□将来に対する漠然とした強い不安感を持つことが多い
□慢性的、重度の状態である
疲労には、「疲れている」という自覚があり、その原因も、残業が続いたなどはっきりしています。
従って、休息等の対応が可能ですし、その対応によっても解消できます。
何より疲労は「睡眠」で開封します。
ところが、過労は本人の自覚がなく(周囲が心配しても、「特に疲れていませんよ」と不思議な顔をする、など)、
原因もすでに特定できなくなっています。
さらに本人の思考や情緒が混乱しており、対応が難しくなってしまっている状態でやっかいなのです。
つづく
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