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今週のドクターコラム

No.255
過労という状態を理解する(2)

 

今回は前回に引き続いて「過労」の実際をとりあげます。

 

 

(3)過労の実際

 

 過労時の症状としては、以下のものが特徴です。

 

①過活動

 

過労時には、疲労を打ち消そうとする過活動(気分の高揚、活動性の亢進)が生じやすくなります。

 

②過緊張

 

過労時には、意欲低下を打ち消そうとするため過緊張(不安感、息苦しさ、動悸など交感神経緊張症状)が生じやすいといえます。

平常時には、自律神経である副交感神経(休息時に優位になる神経)と交感神経(戦うときに優位になる神経)が状況に応じて緩やかに交代しているわけですが、過労時には両者が交互に出現するなど、乱れてしまうことになります。

 

 

①は、幼児が微熱によって饒舌になっている状態を思い浮かべていただければわかりやすいかと思います。

周囲から「最近、少しテンションが高いようだな」などと言われますが、過労の症状だとは気づかないものです。

一方、②は本人が体感できる症状だといえます。本人に「疲れている」という自覚があって実際に症状が出ているのであれば、過労を疑い、休息等の対応を取る必要があるでしょう。

 

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実際に最近経験した過労のケースを紹介します。

 

[ケース①:主に精神疲労によるもの]

 

40歳男性、中小企業経営者

 

・バンコクの洪水後に出向。

・現地の光景を見て呆然と立ち尽くした。

・数日間、がれきの片付けに没頭。

・その後、不眠、気分昂揚、落ち着きのなさ、独り言が出現。

・薬物療法によって改善した。

 

 

[ケース②:主に身体疲労によるもの]

 

30歳男性、エンジニア

 

・残業は推定250時間以上で、休みなく働いていた。管理者であったこと、非常勤の診療が多かったことなどから、残業時間の記録はない。

・気分や意欲には変化はなく、いつも活動的で健康そうに見えた。

・時間が空いたある夕方、同僚たちにストレスを発散したいから飲みに行こうと誘った。周囲は、疲れているのだからやめたほうがいいと忠告したが、本人は他の友人たちと飲みに出かけた。

・夜半、彼は帰宅すると風呂に入り、すぐに寝付いてしまった。帯同していた妻は特にいびきがひどいと感じたようだが、それ以外に変わった様子はなかった。朝になってみると、死亡していた。

 

 

(4)過労による突然死、過労による自殺

 

 

前記ケース②のように、過労状態の駐在員がいわゆる「突然死」に至るケースが、過労死の大きな割合を占めています。

 

突然死とは、医学的には「そもそも問題となる疾患がなく」、発症から24時間以内に死亡しているものを指し、以下のような特徴があります。

 

・40代、50代が多い

・平日と比較して、土曜日、日曜日が2倍近い

・年度末や新年度の始めなどに多い

・0時から3時と深夜に多い

・睡眠中は20%、自宅での発症が多い

・急性心筋梗塞が最多である

 

突然死の三大原因としては、以下があげられます。

 

過労による突然死は、過労が引き金となってこれらの病気が発症するわけです。

 

 

①心臓を栄養する動脈の病気(急性冠症候群):60%

②肺の血管の病気(急性肺塞栓症):10%

③腹部の動脈の病気(急性大動脈解離):3%

 

 

一方、過労状態の駐在員がうつ病への罹患等によって、自殺に至るケースが過労自殺です。以下のような特徴があります。

 

・日本にいた時に既往歴があることが多い

・予測できない突然の自殺が多い

・血縁者にメンタルヘルス不調者がいることが多い

・直前は落ち着いているように見えることが多い

・気分や意欲の低下よりも、ボンヤリ(思考の抑制)が主体であることが多い

 

日本においては、突然死は年間12万人、自殺者は年間3万人(未遂者は数倍にのぼる)といわれていますが、そのうち過労死・過労自殺は大きな比率を占めていると考えられます。

以前のようにことさら心身ともに健康な人が赴任しているわけではありませんので、ご自身も含めて職場全体で過労対策が重要です。

 

 つづく


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