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今週のドクターコラム

No.32
「うつ」をどう評価するか?

今、「うつ」とは何か?ということを企業が、社員一人ひとりが真剣に理解しなおす時期が来ています。
そこで、数回にわけて、「うつ」の基本をとりあげてみます。

 

「うつ」とは何か?
今回は、まずこの「うつ」という基本的な「社会的用語」を考え直してみましょう。

 

精神医学では、「うつ」=「抑(よく)うつ状態」を4つの側面から評価する。

 

一つ目は、感情面である。
ゆううつという感情は、喜怒哀楽のひとつであり、本来人間に備わった、悲しい、寂しい、心細い、孤独な、暗く沈んだ自然な感情である。誰でもが経験する気分。英語ではdepressive moodという。ゆううつな気分が、長く続いたからといって、それが病気の「症状」ではない。それが常態化し、「生きていても何の意味もない」、「死にたい」という「希死念慮」が生じたときに、精神医学では正常でない「症状」とみなす。

 

二つ目は意欲面である。
何かをするのがおっくうで面倒くさい。やる気が出ない。こういう「ものぐさ」状態でも、一時的であったり、会社や学校に行ければ、日常生活に支障がなければ、自然な意欲の低下といえる。しかし、何もできない、出勤できない、登校できないという社会的な障害が恒常化したり、歯を磨くのも、お風呂に入ることもできないという日常生活に支障をきたせば、これは「意欲低下」という「症状」とみなされる。

 

三つ目は思考面である。
集中できない、うまく物事が考えられない、言われたことがサッと理解できない。慢性的な「思考の停滞」は抑うつ症状の重要な「症状」である。「おい、山田君!ちょっと!」と声をかけても、一瞬ぼんやりして、返事が遅い、聞き返しが多い、些細なミスが多い、しかしなんとなくそのことに深刻味がない。思考の停滞は、本人が気付かないところで多く、短いコミュニケーションでは周囲にも気付かれないことが多いが、抑うつ状態の数ある症状の中でも重い部類に入る重要な「症状」だ。

 

4つ目は身体面。
「うつ」=「抑うつ状態」には何らかの身体症状が必ずと言っていいほど見られている。不眠、食欲不振、体重減少、かぜを引きやすい、慢性の疲労感などは一般的であるが、腹痛や頭痛など、検査的には異常を認めない症状が慢性的に続くだけのことも多い。

 

ビジネスマンの大半は、この身体症状のみが目立ち、感情、意欲、思考面では大した症状がないことが多い。子どもや高齢者などにもよくみられるこの身体症状のみが前景に出る抑うつ状態が多いが、これらは、自分自身が精神的な問題という自覚がない「病識の欠如」や、精神的な問題であるはずがないという積極的な否定「否認」によって、状態を複雑にしている。

 

つづく


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