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今週のドクターコラム

No.75
薬物乱用防止講座 その1

酒井法子が警察に出頭した。
コトの真偽はこれからはっきりしてくるだろうが、私としては非常に悲しい。

 

夫の高相容疑者が逮捕されたときに、ある覚醒剤依存症者が私に言った。

 

「のりピーは間違いなくヤッテルね。任意同行で行かないっていうのはその証拠。あれはアブリだな。」

 

アブリというのは覚醒剤を静脈に注射するのではなく、炙った煙を吸って肺から吸引する方法だ。

 

覚醒剤、メタアンフェタミン(MAP)は日本人医師永井博士が戦前に発明したと言われている。戦意昂揚のため、「勇気を出すクスリ」を作ったのである。特攻隊員に使用されたというが、その真偽は明らかではない。

 

覚醒剤は戦後米国に渡り、広まった。しかし、これは静脈注射するものではなく、錠剤だった。効き目の速さからSpeedと呼ばれ、Sと呼ばれた。その後摂取方法の流行も変化し、Ice、Coldなどと呼ばれる、いわゆるアブリが主流となった。

 

覚醒剤は名前の通り、覚醒させるクスリである。世界で最も乱用率が高い国は日本。世界中で生成される覚醒剤のターゲットは戦後ずっと日本である、北朝鮮はその先頭にいた。

 

世界中どこでもクスリといえばヘロインだが、意外なことにヘロイン乱用は日本では非常に少ない。これについてはいろいろと調べたが、はっきりとした理由は分からなかった。

 

ドロドロに抑制するヘロインは覚醒剤との対極にある。これさえあれば何も要らなくなるクスリ。幸福とはこういう気持ちなんだという別世界の快感をもたらすクスリ。それがヘロインである。薬物乱用はいつもこの「意識の変容」を求める好奇心から始まる。ヘロインは薬物の王様と呼ばれ、最後の薬物といわれているクスリだ。

 

しかし、一方の覚醒剤は、そんな幸福をもたらすことはない。静脈注射した瞬間に、髪の毛が一斉に逆立つ。その後ただひたすらギラギラとした敵意や攻撃性、被害妄想や幻覚が続く、そんなクスリだ。

 

では幸福感をもたらさない覚醒剤がなぜ流行るのか?

 

答えは一つである。覚醒剤はセックスの快感を高める sex drugだからである。かつてエクスタシーと呼ばれ、押尾学事件でも取りざたされたMDMAも、覚醒剤と幻覚剤の合剤である。ヘロインはそう言う快感をもたらさない。覚醒剤乱用の啓発活動で最も支障があるのが、その目的が子供たちや一般の人たちに説明しにくいからなのである。

 

私は20年にわたって、青少年の薬物乱用防止や薬物依存の治療に携わってきた。同じ仕事仲間は少なかった。しかしすでにその頃から日本は世界のブラックマーケットのターゲットになっており、日本人は狙われていた。だから薬物の知識をつけて子供たちに教えよう、そう考えて実行してきた。

 

しかし日本人は、いつまでたっても薬物乱用は「身の回りにはない、やくざの世界」としか考えてくれなかった。こんなに乱用者が多いのに。

 

それは今でも大差はないだろう。芸能人が逮捕されても、大麻がこんなに蔓延しても、日本人にはそれは「自分には関係ないこと」としか思えないのである。こういう感覚でいる民族は、世界で日本人だけだと思っていい。

 

覚醒剤乱用は、芸能人と長距離トラックドライバー、暴力団関係者、意識の変容を求める若者たちに広まってきた。それがここ数年、公務員やIT企業、広告代理店、外資系企業のビジネスマンからの相談が急増している。子供たちにも魔の手は伸びている。私が診た最年少の乱用者はなんと小学校5年生である。

 

それでも学校や企業は、薬物乱用の啓蒙を拒否し続けてきた。どこかで事件が起こっても、「うちだけは大丈夫」と思っている。

 

この事件を機に、考え直して欲しい。集中できない人、いつも疲れている人が無理に力を出さなければならない状況にあるとき、いつの間にか「薬物」がユンケルと同じように手に入ったらどうなるかを。

 

 


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